極楽湯 名取店
温浴施設 - 宮城県 名取市
温浴施設 - 宮城県 名取市
雨上がりの朝は、世界がひとつ深呼吸を終えたような静けさを纏っている。路面にはまだ細かな水滴が残り、電線からは雨粒がひとつずつ落ちていく。
8月15日。終戦の日であり、夏の真ん中の日。
空は厚い雲に覆われ、光はやわらかく拡散していた。そんな朝、私は車のハンドルを握り、極楽湯名取店へ向かう。
開店直後の8時半。館内はまだ人影もまばらで、足音がやたらと響く。脱衣所で服を畳み、シャワーで体を洗い流す。まずは水圧強めのジェットバスへ。背中を押し流すような水流は、半分マッサージ、半分は取り調べのようで、昨夜の疲れや眠気をあっさり白状させる。
遠赤外線サウナへ入ると、ベンチの最上段には先客がひとり、静かに目を閉じている。空いた席に腰を下ろすと、じわじわと熱が足元から這い上がってくる。
壁のテレビは高校野球・甲子園の中継。白球がスタンドに飛び込むたび、歓声がサウナ室に届く。この熱と熱気の中では、球児たちの汗とこちらの汗の区別はつかない。
やがてオートロウリュの時間が訪れる。
赤くライトアップされたストーブの石にミスト状の水がかけられ、「ジュッ」という音とともに立ち昇る蒸気。すかさず攪拌機が回り、熱が室内を駆け巡る。呼吸が短くなり、額から顎、胸元へと汗が流れ落ちる。体が「これ以上は無理」と白旗を上げる直前で立ち上がり、水風呂へ。
掲示板には水温17℃とあるが、肌が告げるのは「もっと低い」という事実。ナノ水のきめ細やかな粒子が肌を包み、冷たさが一気に芯まで届く。
心臓がひときわ大きく脈打ち、やがて落ち着く。水から上がってもしばらく冷たさの余韻が肌に残り、外気浴へ向かう足取りは自然とゆっくりになる。
露天エリアの寝そべり椅子に体を預け、厚い雲を見上げる。風が心地よく頬を撫で、時折、蝉の声が遠くから届く。耳にはまだ甲子園の実況が残っていて、現実と夢の境界があやふやになる。時間がゆっくりと溶けていくような、贅沢な朝。
そして風呂上がりのもうひとつの楽しみへ。
極楽湯名取店からほど近い「そばの神田」へ向かう。暖簾をくぐれば、湯上がりの体に香ばしいそばの香りが飛び込んでくる。注文したのは冷たいかけそば。澄んだつゆに細くしなやかな麺。ひと口すすれば、冷たさが喉を通り抜け、先ほどまでの熱がふっと消える。熱と冷のコントラストは、まるで朝風呂の縮図のようだ。
店を出る頃には、雲の切れ間から少しだけ光が差し込んでいた。短い朝の旅路だったが、体も心もすっかり軽くなっていた。
以上
男
コメントすることができます
すでに会員の方はこちら