2024.03.13 登録
[ 岐阜県 ]
ぐうぜん ぐうぜん
ぐうぜん というのは
神さまの くしゃみみたいなもの
なんの 約束もなくて
なんの 準備もなくて
とつぜん きみと 裸でならんでいる
あした 会えるかは わからない
でも ここに来れば 会える気がする
それは 言葉にしない 約束
カレンダーには 書かない 約束
サウナの 熱さは 肌を刺すけれど
きみといる 時間は 胸を温める
あつい と あたたかい は
にているようで まるでちがう
汗が ぽたぽた 落ちる
時間が とろりと 溶ける
ゆっくり ゆったり
生きているって たぶん
こういう ことなんだ
男
[ 岐阜県 ]
乾いた踵(かかと)
サウナの熱気(ねっき)に 焼かれたか
いいえ さうではありませぬ
水風呂(みづぶろ)の水に 晒(さら)したか
いいえ さうでもありませぬ
ただ わたくしの踵は
ガサガサと 荒れてゐるのであります
魂(たましひ)のやうに 乾いてゐるのであります
汗は流れて 消ゆるもの
皮膚(ひふ)は縮(ちぢ)んで 黙るもの
そこへ 白いクリームを
とろりと 塗つてやるのです
癒(い)やされ また荒れ 癒やされて
ぐるぐると 巡(めぐ)る日々の 空(むな)しさよ
意味など どこにも ありはせぬ
けれど 触(ふ)れれば そこに在る
確かな 硬(かた)き 我が証(あかし)
踵ばかりが 育つてゆく
踵ばかりが 生きてゐる
男
[ 岐阜県 ]
蒸気と夜
風呂の日だ、風呂の日だ
今日ばかりはと、二度浸かる
灼(や)けつくやうな熱波(ロウリュ)が来て
あゝ、私の倦怠を焼き尽くす
大衆浴場(お風呂屋)は、人の群れ
種々雑多なる、湯のたまり
皆一様に、蒸されゆく
大きな函(はこ)にて、蒸されゆく
凍れる冬の、寒空に
火照った肌が、なじむのだ
露天の湯船は、永劫の
母の胎内(なか)より、あたたかい
外気浴(そと)で寝そべり、見上げれば
夜空は高く、暗いのだ
湯気はゆらゆら、昇って消える
私の吐息も、昇って消える
湯気はゆらゆら、昇って消える……

男
[ 岐阜県 ]
カッパとキツネの水遊び
雪がちらちら舞う、寒い冬のこと。
カッパとキツネは、歌いながら湯屋へ入っていった。
「熱いサウナで 汗かいて
冷たい水風呂 ザブッとな
一回 二回と 繰り返しゃ
体ジンジン 極楽じゃ」
あがったあとは、うまい飯。
二匹は並んで、また歌う。
「カッパが食うのは 味噌カツだ
サックリ サクサク 味噌カツだ
キツネが食うのは 煮込み鍋
フーフー ズルズル 煮込み鍋
腹も満ち満ち 極楽じゃ」
腹がくちれば、昼寝の時間。
ゴロリと横になり、夢の中へ。
「ゆったり のんびり 夢の中
疲れも飛んでく 極楽じゃ」
外は寒くても、ここはポカポカ。
めでたし、めでたし。

男
男
[ 岐阜県 ]
『冬の地下水と僕の扉』
ビルの隙間を吹き抜ける風に 少し肩をすくめて 逃げ込んだ場所は いつものあの温かい場所 溜め息みたいな白い息も ここではすぐに消えていく 凍えた身体が ゆっくりとほどけていくのを感じた
時計の針なんて もう気にしなくていい ただ流れる汗と一緒に 余計な強がりも落ちていく 熱に浮かされながら 僕は自分を取り戻すんだ
冬の地下水は 驚くほど冷たいのに どうしてこんなに 優しく僕を包むんだろう まるで不器用な誰かの 本当の優しさみたいに 境界線をなくした世界で 僕はただ 水の中をさまよう 魚のように自由になる
何分経ったかなんて 誰も教えてくれないけれど ぼんやりとした頭で 世界の輪郭をなぞってみる 厳しさの中にある 許しのような静けさが 僕の心の一番奥まで 透き通っていく気がした
水風呂の中で じっと目を閉じれば 宇宙の片隅に 浮かんでいるような気分さ 冷たさが教えてくれる 身体の芯にある熱 たださまよいながら 見つけた答えは 「ありのままの僕でいい」 そんなシンプルなこと
重たいドアを開けて 外の世界へ踏み出す さっきまでの寒空が 嘘みたいに心地いい 新しい風が 僕の頬を撫でていく
帰り道 見上げた夜空は高く さあ 夢の世界への扉はもう開いている ポケットの中で手を温めながら 明日を信じて歩き出そう La La La...
男
[ 岐阜県 ]
hild(こども)とsauna(サウナ)
坊やはサウナにゃ入らない。
(熱いのは、まだ、駄目なのだ。)
けれど坊やは知つてゐる、
親父の時間を、知つてゐる。
肌で感じる、熱さぢやない。
肌で感じる、冷たさぢやない。
サウナに入れないこの身体(からだ)が、
サウナの感覚を、時間で感じてゐるのだ。
ぼんやりと、ただ、感じてゐるのだ。
ああ、サウナは時間と共にある!
サウナは時間と共にある!
ぽつねんと待つてゐるこの刻(とき)が、
親父の刻(とき)と重なつて、
――その引継ぎに、すべてがある。
熱いのでもない、
冷たいのでもない、
ただ、そこにある、確かな時間。
それが、すべてであるのだ。
男
[ 岐阜県 ]
友とサウナ
友よ。
我々は今、共にいる。
この熱い空間で、ただ汗を流している。
共に過ごすこの時間が、
俺の生命(いのち)をたまらなく揺さぶるのだ。
見よ。
この水風呂の、肌をえぐるような冷たさ。
お前も俺も、同時に息をのむ。
だが、
この冷たさをお前と共有するこの一瞬。
ああ、ここにこそ真実の「あたたかさ」がある。
心の奥底から、熱い何かが湧き上がってくる。
そうだ、これだ。
この瞬間こそが、人生の糧である。
俺たちが明日、
再び断固として立ち上がるための、
揺るぎない糧となるのだ。
友よ、この確かな手応えを抱きしめよ。
男
[ 岐阜県 ]
湯屋(ゆや)の幻想
(人は、まばらな、影法師)
石室(いしむろ)は、ヒカリにみち
わたくしの、あかい皮膚(ひフ)を、じりじりと焼く
それは、小さな太陽の炉
(ザブン、と)
水風呂の、そのアヲイ底をのぞけば
キラキラ、キラキラ、
まるで、こわれた金剛石(こんガうせき)
銀河の砂が、またたいてゐる
(ふう、と)
わたくしの、くちびるから
つかれは、ねずみいろの煙となり
するすると、大気へ、のぼってゆく
つめたい、カゼの、キモノが
わたくしの、ほてった、からだを包む
ああ、
空は、もう、すきとほる、冬の、瑠璃(ルリ)
わたくしは、もう、
透明な、ゆめの軌道(きだう)へ
しづかに、しづかに、すひこまれてゆく
男
[ 岐阜県 ]
からからだ。
タオルが からからに なっていく。
おれの からだも じりじり 焼かれてる。
でも なんだか うれしいんだ。
こころが からからに わらってる。
いどみずは いつも おなじがお。
でも きょうは すこしだけ あきのにおいがした。
とくとく とくとく
あの おくのほうへ いってみたいなあ。
とくとく うまれる ところまで。
ふわふわ するなあ。
だれかが ゆめのなかへ おいでって よんでいる。
いま みているのが ゆめなのか。
ゆめのなかに おれがいるのか。
まあ どっちでも いいか。
かぜが やってきた。
なつの のこりものが 「またね」って やってきて、
めのまえで 「こんにちは」って あきになった。
そらが すとん と おっこちてきて
まっくらな よるになった。
ああ、そうか。
おれの ふるさとは
やっぱり ここだったんだ。

男
[ 岐阜県 ]
そら と かわ と 木 と
ちいさな木の、おうちのなかは、
ぽかぽかと、あたたかい
おこりんぼの「あつい」じゃない、
やさしい「あったかい」
おはなとお口は、しずかでも、
こころは、おはなしする
木のにおいが、ふんわりしたら、
あせのつぶさん、こんにちは
おそとは、空のいろした川
地面のお空に、とびこんだら、
わたしは木の葉か、おさかなか、
ゆらゆら、水とあそびましょ
そらに、電線みえてきたら
もうそこが、終着地点
川のうたごえ、ききながら、
すうっと、からだが冷えていく
お椅子がぽつんと、待っていた
「おつかれさま」って、云ったかな
とけいさんは、かくれんぼ
わたしの心臓が、いま、とけい
サウナあそびは、川あそび
川あそびは、水あそび。
みんなみんな、あそんでる。
だれにも、ないしょの、あそびかな。

共用
[ 岐阜県 ]
すみっこのおふろ
町のすみっこに、ふしぎなおふろがあります。
からからの木のへやには、ストーブの神さまが住んでいて、しずかに息をしています。
そのいすにすわっていると、わたしの心臓が、ちいさなたいこみたいに、トントン、とだんだんはやくなるのが、じぶんでわかるのです。
テレビのお話の、ことばとことばのあいだが、すーっと長くなって、まるで、お話のつづきをわすれてしまったみたいに、ゆーっくり、ゆーっくりになっていくのです。
そのおくには、もうひとつ、ちいさなおふろ。
耳をすますと、トクトク、トクトクって、だれかがわたしをよぶ声がします。
ママが、まえにそっと教えてくれました。
「ここのお水はね、あなたが生まれたふるさとの井戸から、だれにもないしょで、くんできたお水なのですよ」
だから、ここにからだをしずめると、いちばんはじめの、なにもなかったあなたに、そっともどれるのです。
一秒が、もうすこしここにいたいなって、二秒のそばで、すこしだけ長く止まっている、そんな気がするのです。
心が、きれいなハンカチみたいに、あらわれる場所。
からだが、まっしろな画用紙にもどる場所。
さあ、またあしたから、あたらしい絵を、かきましょうね。
男
[ 岐阜県 ]
こんな夢を見た。
自分は熱気に満ちた、狭い木の室に座っている。壁も天井も乾ききった木でできていて、隅に置かれた熱い石が、時折じいと低い音を立てる。それが世界の全ての音であるかのように、あたりは静まり返っていた。どれくらいそうしていたか、ただ汗が玉になって流れ、やがて身体中の水分が、まるで嘘のように蒸発していくのを感じていた。
もう堪えられないと思った時、すっと立ち上がり、隣の室へ足を踏み入れた。そこは思いがけぬ光に満たされていた。高い天窓からであろうか、一本の青白い光の柱が、まるで天から差し込んだかのように、まっすぐに石の槽の中へと落ちている。その光以外のあたりは深い影に沈んでいて、槽の水だけが、この世のものならぬ色を湛えて静まり返っていた。
自分が縁に立つと、水の中から声がした。
「また来たのかね」
涼やかで、男か女かも分からぬ声であった。
「ああ、来たよ」と自分は答えた。
「世の熱に、魂が乾いてしまった時は、必ずここへ来ると約束したからな」
「よろしい。では、私の中へおりて来なさい。その熱した身体が、ちょうど良いころ加減に冷えたなら、お前の魂はきっと元の場所へ還れるだろう」
そう言われたので、自分はそろそろと石の段を降りて、光の柱が落ちるその水へ身体を沈めた。
不思議なことに、水は少しも冷たくなく、まるで天人の羽衣のように、すんなりと肌にまといついた。掛け流されているのであろう、槽の隅から、とく、とく、と幽かな音が絶え間なく聞こえてくる。自分の心臓も、はじめは早鐘のように打っていたが、そのうちに段々と静かになり、やがてその湧き水の音に溶けて、どれが自分のものであるか、分からなくなった。
自分は眼を閉じた。時間の感覚はとうに無い。一分か、一時間か。それとも、もう十年もこうしているのかも知れない。
ふと、自分の身体が、水のなかで透き通っていくような気がした。恐る恐る目を開けて、水底に沈んだ自分の手を見ると、指先が白く、硬い石に変わり始めている。その石はじきに腕となり、胴となり、やがて自分は、物言わぬ一つの石として水に横たわっていた。
とく、とく、と水の生まれる音がする。青白い光が、石になった自分を撫でていく。
その時、自分ははっと気がついた。ああ、約束の時はもうとうに過ぎて、自分は幾度もここへ通ううち、とうとうこの水の一部となって、永遠を得たのだと。そう悟った時、もはや何の感情もなかった。ただ、とくとくと絶え間なく水が生まれ、また流れ去っていく、その永遠の律動そのものに自分がなったのだと。
男
[ 東京都 ]
「こだまでしょうか」
「熱くなれ」っていうと、
「じりじりするよ」っていう。
「冷たくなれ」っていうと、
「目が覚めるよ」っていう。
「空っぽになれ」っていうと、
「世界が遠のくよ」っていう。
そうして、あとで
静かになって、
「お腹すいたね」っていうと、
「お腹すいたね」っていう。
こだまでしょうか、
いいえ、いのちです。

男
[ 東京都 ]
あせ と おみず
あつい、あつい
おへやのなかで、
わたしは うまれるの。
おじさんの せなかに
ぽつんと うまれるの。
「おつかれさま」っていうかわりに
からだの いやなきもち、
みんな わたしが もらうのよ。
まどの すきまから、
かぜさんが のぞいてた。
おそらは うすい みずいろで、
とっても きれいだったけど、
わたしは すぐに さようなら。
こんどは つめたい おみずさん。
はじめは びっくりさせるけど、
ほんとは とっても やさしいの。
「だいじょうぶ」っていうみたいに、
あったかく つつんでくれるの。
つめたいのに、あったかい。
ふしぎね、ふしぎ。
わたしは ながれて おしまいでも、
おじさんが おうちに かえるとき、
こころが すこし かるかったら、
それは わたしも、うれしいな。
おみずさんも、うれしいな。

男
[ 岐阜県 ]
汗と星、友との祈り
ああ、水風呂の底深く
凍てつく水の精、肌を撫で
わたくしの内なる熱と、外なる冷気とが
静かに、ひとつになるのでございます
もつ鍋は、生命の鍋
にんにくと唐辛子の、赫い星々が
わたくしの胃袋の宇宙を巡り
力の源となり、燃えさかるのでございます
サウナは、熱波の小宇宙
汗の粒は、まことの露となり
わたくしの毛穴から、滲み出る
地上の穢れを、清めるのでございます
されど、まことの喜びは
友と語らう、この時間
裸の心と心とが
星の光のように、通い合うのでございます
やがて、眠りの淵へと
わたくしの意識は、沈んでゆく
夢と現の、あわいにて
銀河鉄道の、汽笛が聞こえるのでございます

男
男
男
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