蒼の湖邸 ビワフロント彦根
温浴施設 - 滋賀県 彦根市 宿泊者限定
温浴施設 - 滋賀県 彦根市 宿泊者限定
お風呂に浸かると、
水面のむこうに 琵琶湖がひろがっていた
サウナ室の小さな窓からも
水風呂の縁に立ったときも
そこには変わらず 湖があった
琵琶湖に沈みゆく夕陽を眺めていると
ふと思い出した映画があった
『On Golden Pond』
静かな湖のほとりの話だった
老いた父と その娘
長いあいだ 言葉を交わしてこなかったふたりが
少しずつ 時間を巻き戻すようにして
なにかを取り戻そうとしていた
彼女は言った
「I want to be your friend」
そんな台詞があったように思う
字幕では「あなたと友だちになりたい」と訳されていた
それは 親子が口にするには 少しだけ不器用で
でもどこまでも誠実な言葉だった
あのとき 湖はとても静かだった
カヌーが 水を切って進んでいく音だけが
まるで時を刻むように響いていた
映画の内容は ほとんど忘れてしまったけれど
その場面だけは なぜか 心のどこかに残っている
まるで 古い記憶のなかに そっとしまわれていた風景のように
そして今
わたしは 琵琶湖を正面に見ながら
静かな風を受けている
空と水面は ちょうどあの映画のような色をしている
不意に 記憶の引き出しが 音もなく開く
もしかしたら わたしも ずっと
言えなかった言葉を 心のなかで転がしていたのかもしれない
父と うまく向き合えなかったまま
時だけが過ぎてしまった
でも きっとそれでいいのだと思う
記憶というのは なにかを解決するためのものじゃない
ただ 静かに沈んでいって
やがて風景のなかに 溶けていく
そして そのあとに残るものは
たぶん――
ほんのすこし 優しくなった空気だけだ
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