辰巳湯
銭湯 - 東京都 江東区
銭湯 - 東京都 江東区
金曜日の空は、まるで僕の心境を映すかのように変化していた。昼間の清々しい青空は、夕刻が近づくにつれて薄い雲のヴェールに包まれ、どこか懐かしい曖昧さを纏っていく。
19時を回った頃、僕は久しぶりにあの場所の前に立っていた。
数年という月日は、記憶の中にあった風景を少しずつ変えていたが、それでも確かにここは、かつての僕の聖地だった。近くに住んでいた頃、何度となく足を向けた、いわばホームグラウンド。人生の転機とともに離れて以来、ずっと心の奥底で再会を願っていた場所。
下駄箱の札を数える習慣は、昔から変わらない。その数は僕に安堵をもたらした。混雑を避けたい僕の小さな願いが、今日は叶えられそうだった。
浴室の扉を開けた瞬間、記憶が鮮やかに蘇る。そうだった、ここはこんなにも広々としていたのだ。時の流れが施設を変えることもあるが、この空間の持つ開放感は、まったく色褪せていなかった。
サウナ室に足を踏み入れると、そこには穏やかな時間が流れていた。満席になることのない、ゆとりのある空間。時には一人きりになる贅沢な時間さえ与えられる。しかし、この楽園にも試練は訪れる。
10分に一度、まるで天の意志のように強烈な熱風が室内を支配する。その瞬間、僕の意志は熱に屈し、思わず外へと逃げ出してしまう。それでも、それこそがこの場所の個性であり、昔から変わらぬ洗礼の儀式なのだと思い出す。
水風呂から外気浴へ、そしてまたサウナへ。この循環を2.5回。最後の半回は、完全なる調和の状態へと導いてくれた。体の芯から湧き上がる至福感は、まさに「整う」という境地そのものだった。
故郷に帰るような、古い友人と再会するような、そんな温かな感覚を胸に、僕はこの夜の記録を残す。時は流れても、本当に大切なものは変わらずにそこにある。そのことを、この場所が静かに教えてくれた。
感謝を込めて。
拝。
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