松阪温泉GURUSPA
温浴施設 - 三重県 松阪市
温浴施設 - 三重県 松阪市
「サウナ最高かよ」第15話 鎮魂(レクイエム)の雫
仕事という名の日常の重圧を脱ぎ捨て、男が辿り着いたのは三重県松阪の地。
そこには、新しさと静寂を纏った「グルスパ」という名の桃源郷があった。
駐車場を埋める車の数に、一瞬、胸の奥を小さな焦燥がよぎる。しかし、暖簾を潜った先に待っていたのは、期待を裏切る静寂だった。いつもは賑わうこの場所が、今日に限って牙を抜かれたように静まり返っている。
「ついてるな……」
独り言は、湯気の向こうへと溶けていった。
まずは身を清め、湯船で体を温める。すべては、これから始まる「儀式」のための伏線だ。
サウナ室の扉を開けると、そこにはほぼ貸切の空間が広がっていた。二十分に一度、静寂を切り裂くようにして行われるオートロウリュ。熱気が重厚な湿気を伴い、肌に纏わりつく。
滴り落ちる汗は、一週間分の澱(おり)そのものだ。男は、己の顔からこぼれ落ちる雫をただ見つめていた。その一滴一滴に、語るべき物語など何もない。ただ、生を実感させる熱さだけがそこにあった。
限界まで熱に炙られた体を抱え、男は三重県で唯一無二とされる「シングル水風呂」の前に立つ。
掛かり湯で汗を流し、一気にその深淵へ、ダイブだ。
「……ッ」
呼吸が止まる。体全身の細胞が、凍てつくような冷気によって強制的に再起動させられる。日常の倫理も、仕事の瑣末なトラブルも、この一瞬の「冷却」の前では無力だった。それは、禁断の快楽に近い。
外気浴スペースへ出ると、春を予感させる柔らかな風が、冷え切った肌を愛撫するように吹き抜けた。
椅子に深く腰を下ろし、ゆっくりと瞼を閉じる。
視界が暗転するのと同時に、意識は「トトノイ」という名の境地へ。
二セット目。先ほどよりもきめ細やかな汗が吹き出し、再び水風呂へ。より深く、より静かな場所へと誘われる。
空は晴れ渡っていた。
しかし、男の心にあるのは晴天の爽快感だけではない。
全てを剥ぎ取られた後に残る、清々しいまでの虚脱感。
「今週も、よくやったじゃないか」
目を閉じたまま、心の中で自分にそう告げた。
その声は誰にも届かないが、それでよかった。
松阪の空に流れる雲が、男の束の間の平穏を静かに見守っていた。
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