癒しの里名張の湯
温浴施設 - 三重県 名張市
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「サウナ最高かよ」第16話 三月七日の名もなき恩寵
三日連続、導かれるように暖簾をくぐった。
サウナが私を呼んでいたのか、それとも私の内なる渇きが、あの熱狂を求めていたのか。その境界線は、立ちのぼる蒸気の向こう側に消えてしまった。
3月7日。カレンダーに刻まれた「サウナの日」という記号が、今日ばかりは重みを帯びている。普段なら、喧騒を嫌って週末の「ホーム」は避けるのが私の流儀だ。しかし、今日という日は、逃れられない約束のような気がした。
サウナ室の温度計は、いつもより2度だけ高い数値を指していた。
それでも、私の皮膚が記憶している熱量には届かない。物足りなさを感じながらも、水風呂の通常よりマイナス3度という「中途半端な数字」に、私はふと足を止める。
それは、施設の人間たちが絞り出した、精一杯の「心意気」だった。
完璧ではない。だが、そこには計算高いビジネスを超えた、剥き出しの感謝が宿っている。ロウリュで幕を開け、アウフグースの猛火に焼かれ、再びロウリュで閉じる。その一連の儀式の中で、私はある真実に突き当たった。
「当たり前」という名の贅沢に、どれほど多くの他人の指先が関わっているか。
ストーブを点火し、タオルを振り、水をかける。名もなき誰かの労働の上に、私の安息は築かれている。汚濁にまみれた大人の世界で、利害や計算に追われる日々。そんな日常が、熱波とともに少しずつ剥がれ落ちていく。感謝を忘れた傲慢な皮膚を、蒸気が優しく、しかし厳しく浄化していった。
外気浴の椅子に深く腰を沈め、肺の奥まで冷気を吸い込む。
無の世界。
時折吹き抜ける風は、まるで誰かが仕組んだかのように、私をさらなる深淵へと誘う。
「トトノイ」の正体とは、自分を縛り付けていた執着からの解放なのかもしれない。
清々しい、などという言葉では足りない。
私はただ、自分が透明な存在に戻っていくのを、目を閉じて静かに見守っていた。
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