楠温泉
銭湯 - 三重県 四日市市
銭湯 - 三重県 四日市市
6日間ぶっ続けで働き、頭の芯までカフェインとタスクで満たされた。
ひさびさの休日、ようやく体に電源を落とせる日が来た。
とはいえ、休みの初日はなぜか予定で埋まるものだ。
朝から洗車、昼にはバイクの整備、そして夕方にはどっとくる倦怠感。
──ここまでくると、人間、もはや油圧の切れた機械だ。
そんな中、ふと脳裏に浮かんだのが“楠温泉”の三文字。
昭和8年創業、今年で実に91年目。
サウナにハマる以前、コロナ禍で銭湯巡りをしていた頃、
最も通った「近所の聖地」だった。
回数券を買って週2〜3回、まるで業務報告のように通っていたあの場所だ。
最近は派手なスーパー銭湯ばかり行っていたけれど、
サウナイキタイを見てみると「スチームサウナ リニューアル済み」の文字。
懐かしさと好奇心が背中を押した。
到着してまず感じたのは、時間がゆっくり流れているということ。
外観も、脱衣所の木の軋みも、相変わらず昭和の空気をまとっていた。
ただ、スチームサウナだけが明らかに異質だ。
檜か何の木かわからないが、板張りの室内から立ち上る蒸気が容赦ない。
3人が座れば満席という狭さの中、
足元から噴き上がる熱気がまるで“地獄の口”。
足をそのまま置けば、皮膚が社会的にアウトになりそうな温度だ。
目の前に置かれた3つの砂時計。
その砂が落ちるたび、自分の中の疲れも少しずつ落ちていく。
音も会話もない、ただ湿った呼吸と木の香り。
これが“現実からのログアウト”というやつかもしれない。
水風呂はペットボトルが4本ほど浮かんでいた。
2リットルの氷入りだが、すべて完全に溶けていた。
チラーなど望むべくもなく、
地下水か水道水をそのまま出しっぱなしにしているのだろう。
温度はそこまで低くない。
だが、あの激烈スチームのあとに入れば、
それでも十分に「整う」という言葉の意味を思い出させてくれる。
整い椅子など、もちろん存在しない。
脱衣所の木製ベンチに座り、
体をしっかり拭き上げながら静かに目を閉じる。
扇風機の風が、湯気とともに疲れを攫っていく。
外の喧騒は聞こえない。聞こえるのは、遠くのドライヤーの唸りだけ。
利用客の多くは現場仕事の方々。
刺青を入れた逞しい背中が湯気に霞む。
けれど彼らもまた、今日という日を生き抜いた同志に違いない。
社会のどこかで誰かが汗を流している──
それを思えば、なんだか誇らしい気すらしてくる。
機械の故障もご愛嬌。
古びた蛇口の音さえ、今日は音楽に聞こえた。
平成、令和と時代は変わっても、楠温泉はそのままだ。
そしてたぶん、私も変わっていない。
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