楠温泉
銭湯 - 三重県 四日市市
銭湯 - 三重県 四日市市
楠町に、再び湯気が上がった。
楠の街にもう一度白い湯気が立ちのぼっているのを見た瞬間、胸の奥が静かにほどけた。
正直に言えば、約一か月前に流したあの涙は、少しだけ返してほしい気もする。
だが、それ以上に、こうして戻ってきてくれた事実が、すべてを上書きしてしまった。
約一か月半の休業を経て、楠温泉は営業を再開していた。
外装は塗り替えられ、以前よりも明るい印象を受ける。決して新しさを誇示するわけではないが、「まだ続く」という意思が、建物全体から静かに伝わってくる。
館内も必要なところに手が入っていた。
シャワーは固定式の昭和なヘッドからホースに変わった。PayPayやクレジットカードにも対応している。長い歴史を持ちながら、無理なく現代へと歩み寄っている姿が、どこか頼もしい。
新調されたボイラーの威力は想像以上だった。
スチームサウナは、皮膚が火傷するレベルのの激アツ仕様。
天井から滴る水滴が頭に落ちると、一瞬で現実に引き戻されるほどの熱さだ。
それでも常連たちは「熱いなあ」と言いながら、水風呂へ向かう足取りが軽い。喜びは隠しきれていなかった。
水風呂は以前よりもしっかり冷え、熱との対比が実に心地いい。
きっちり3セット。静かに整うことができた。
無期限休業の張り紙を目にしてから、この短期間での再開。
これは奇跡と言っていい。
過去から未来へ。
楠温泉の歴史は、まだ終わらない。
湯上がりの常連たちの表情は、驚くほど穏やかで、にこやかだった。
あの涙さえも、今となっては必要な通過点だったのかもしれない。
楠町には今日も、そして明日も確かに湯気が立っている。
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