グリーンランド 中洲店
カプセルホテル - 福岡県 福岡市
カプセルホテル - 福岡県 福岡市
中洲川端の駅を出て、一分も歩かないうちに見えてくる。「グリーンランド」。名前だけ聞けば遊園地か何かかと思うけれど、実態はサウナ&カプセルホテル。
ロウリュを浴びて、水風呂に飛び込んで、外気浴で宇宙と合一して。それだけでじゅうぶんのはずなのに、なぜか3階のスナックみどりに立ち寄ってしまう人が後を絶たないという。週末になると、女将が厳選したレコードが回る。バーカウンターに、ジャズの名盤が流れる。サウナ上がりのほてった体で、生ビールを一杯。
悪くない。というか、かなりいい。
スナックみどりを語るとき、避けて通れないのが真空管アンプの話だ。国内有数の音響チーム・小松音響が手がけた真空管アンプが、4台ディスプレイされている。4台。
私は決してオーディオマニアではない。スペックを語れる知識もない。ただ、あのオレンジ色にぼんやり灯る管の光を見ると、深いところで「欲しい」という気持ちが湧き上がってくる。理屈じゃない。あの光に、負ける。
サウナで毛穴が全開になっているせいか、深夜の中洲という特殊な磁場のせいか。欲しいと思う気持ちと、自分にはまだ早いという気持ちが同時に来る。この感覚、真空管アンプに限った話じゃない。
書評つきで紹介された漫画の棚の前に立ったとき、もう少し複雑な気持ちになった。読書コーナーには、誰かが丁寧に言葉を添えた漫画がずらりと並んでいる。
私はとりあえず、全部の書評を読んだ。漫画よりも先に、書評を読んだ。これはいったい何をやっているのか。
書評というのは、その人の「世界の切り取り方」が出る。同じ作品でも、何に反応したか、どこを引用したか、誰に薦めたいと思ったか。女将の書評を読みながら、この人はこういうふうに物語を読む人なんだ、と感じた。
そこで少し、自分の孤独に気づく。
グリーンランド中洲店のコンセプトは「おじさんたちのユートピア」だ。リモートワークの孤独感、社会との関わりの希薄さ。そういう時代に「1人でいられる場所」として生まれた空間だという。
読んだとき、少し笑ってしまった。笑ったあと、ちょっと胸が詰まった。
「ユートピア」というのは、極上の幸福を求めているわけじゃない。ただ、ほっとできる場所だったりする。
真空管アンプのオレンジ色の光。書評つきの漫画。女将が選んだレコード。これらは全部、「1人でいることを、悪くないことにするための装置」だと思う。
それに気づいたとき、さっきまで喉から手が出るほど欲しかった真空管アンプへの渇望が、少し違う色を帯びた。あれはアンプが欲しいんじゃなくて、あの光の中にただ座っていたい、ということだったのかもしれない。
それがわかっただけで、一杯飲みに来た甲斐はあった。
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