佐賀の湯処 KOMOREBI
温浴施設 - 佐賀県 佐賀市
温浴施設 - 佐賀県 佐賀市
後輩の助手席
わたしには九州に後輩が何人かいる。
そのうちの二人が「こもれび、絶対いい」と言ってきた。
そのうちの一人、しかも女の子が、わざわざ車で連れてきてくれた。
普通、こういう経験は人生でそんなに何度もない。というか、たぶん数えるほどしかない。後輩の女の子が運転する車の助手席に座る、というだけで、わたしの自尊心と緊張感は交互に揺れ動いていた。「先輩らしくしなきゃ」と「先輩らしさってなんだ」が、音楽に合わせてリズムよく交替していた。
そして着いたのが、佐賀市にある新しい温浴施設だった。
源泉掛け流し、という言葉には、ある種の「本気」が宿っている。
地下1,126メートルから湧き出すナトリウム炭酸水素塩泉。「美肌の湯」とも呼ばれるその湯に浸かると、肌にまとわりつくようにトロリと柔らかく、知らぬ間に日頃の疲れと雑念が落ちていく。雑念が落ちる、というのは比喩ではなくて、湯の中で実際に「あ、さっきまで何か考えてたな」と気づくあの感覚のことだ。何を考えていたかは、もう思い出せない。
内湯・露天を合わせて8種類の湯船。岩風呂、電気風呂、壺湯。どこへ入っても源泉がかけ流されていて、湯上がりの肌はしっとりと潤っている。ここで「ぬるぬるする」と言う人と「すべすべする」と言う人に分かれるのだが、わたしは完全に後者だった。言葉の選択が、そのままその人の機嫌を表している気がする。
この施設の真骨頂は、サウナだ。
男湯には「ISOサウナ」という、国内最大級のスタジアムサウナがある。大型スクリーンが2面。映像と熱が同時に身体を包む。熱風が鼓膜と心臓をじんわりと刺激してくると、「これが現代のサウナか」と思わず膝を立てたくなる。そしてわたしは実際に膝を立てた。
女湯には「HAJUサウナ」という香りをテーマにしたサウナと、露天に樽型のバレルサウナがあるという。セルフロウリュができる仕様で、ただ熱いだけではないと後輩は言っていた。うらやましい、とは言わなかったが、顔には出ていたと思う。
施設を出るとき、後輩が「連れてきて良かった」と笑った。
その言葉には余計な計算がなかった。「いい場所を共有したい」という、それだけの気持ちが乗っていた。そういう言葉を、わたしはときどきうまく受け取れない。「気を遣わせてしまった」とか、余計な翻訳を挟んでしまう。
でも今日は、素直に受け取れた気がした。
温泉のせいか、サウナのせいか、あるいは助手席に座らせてもらったせいか。たぶん全部だと思う。
持つべきものは後輩で、持ち帰るべきは心の余韻だ。そういうことを、わたしは980円で学んだ。
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