宮崎直哉

2025.11.18

1回目の訪問

こおりやま駅前の夜風は冷たく、駅前サウナ24の赤いネオンだけが妙に健気に灯っていた。出張の帰り道など、ろくに寄り道もしないのだが、その日はどうにも胸の内に“余白”があって、そこに温度を足すようにサウナへ滑り込んだ。

原料工場を歩いた一日だった。何度も資料で追い、口で説明し、数字で管理してきた“あの成分”が、実際にはもっと深く、もっと手触りのある物語を持っていることを、現場で思い知らされた。自分は分かっているつもりだった。だが、原料のタンクに体を寄せると、その奥に沈んでいる歴史とか、風土とか、製法に込められた執念みたいなものが、こちらの襟をつまんで引き寄せてきた。

そう考えながら入った駅前サウナ24は、まるで私のプロジェクトそのもののようだった。

サウナ室は100℃近くまで上がっていて、数字だけ見れば“強い”。だが入って数分で気づく。温度の割に湿度が追いついていない。肌に乗ってこず、喉だけが乾いていく。熱量はあるのに、伝わってこない。まるで私がこれまで訴求してきたメッセージのようで、笑ってしまった。

“数字は強い。だが届いていない。”

昭和の銭湯みたいな薄暗い壁と、常連たちのゆるい空気。それらが妙に居心地よくて、逆に思考が明晰になった。高温サウナのはずなのに、どこか“あと一滴の蒸気”が足りない。いや、それは蒸気だけではない。人は、熱があるだけでは動かない。湿度―つまり“伝わる理由”が必要だ。

原料の奥行きは今日、知った。まだ語っていない物語は山ほどある。だが私は、その“蒸気”を製品の訴求にのせきれていなかった。熱量だけで押し切ろうとしていたのかもしれない。高温サウナが、がらんと乾いた部屋のように。

私はサウナに座りながら、静かに反省した。熱だけでは足りない。湿度を与えるのは、物語であり、実感であり、現場の手触りだ。工場で嗅いだ匂い、職人の視線、タンクを叩いた時の響き―その全部が、湿度になる。

水風呂に沈むと、今日の気づきがひやりと芯まで染み込んだ。ようやく伝わる温度が整った気がした。

サウナ24の昭和レトロな天井を見上げながら思った。

私の仕事も、このサウナと同じだ。
温度を上げるだけなら、誰でもできる。
そこに湿度を足して、はじめて“伝わる”。
そして、その湿度は机の上には落ちていない。現場にしかない。

だからなんなんだ?
―いや、今日の出張は、その“なんなんだ”を探す旅だった。

駅前の夜風は、少しだけやわらかくなっていた。

宮崎直哉さんのこおりやま駅前サウナ24のサ活写真
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