ゆーらんど
銭湯 - 東京都 板橋区
銭湯 - 東京都 板橋区
サウ後日記⑧
ハシゴ旅最終章
曇天
九月一四日
拙き文、遅参いたしました。
その間隙こそ、私にとって苦痛であり、また一抹の美学でございました
東京は板橋区板橋、ゆ〜らんど
ビルの谷間に忽然と現れる大衆の殿堂。
街のざわめきがようやく沈殿し、電燈だけが湿っぽくぼやける舗道を照らしている。
ゆ〜らんどの入口へ続く階段は、まるで小さな劇場の舞台へ上がるための花道であった。
自動の扉が自身を誘う様に銭湯と夜闇の仕切りを跨ぐ
深夜の闇を背に、店主は微笑みを絶やさず、まるで夜空に差し込む月光のように、客の心を柔らかく照らしていた。
彼の挨拶はまるで戦地から帰還した兵士を迎える凱旋のラッパのごとく、客の心を解き放つ
浴場にてサウナに入るための支度
それは、ただ体を清めるだけでなく、精神を研ぎ澄ます前奏曲である。
私は深呼吸をひとつ、心を整え、熱気の中へ身を委ねる準備を整える。
浴場はかすかな湿気と、長年の歴史が染みついた匂いが漂った。
壁のタイルには、幾重もの時間の痕跡が刻まれ、完璧な清潔とは程遠い
決して綺麗とは言えない浴場それは、装飾を剥ぎ取った、裸の人間の営みを映す神聖な舞台であるのだ。
今回は小生が案を出し、浴場を選別した為に
諸兄、白濁パラッソス氏は
表情には軽薄な嘲笑が漂い。軽い感謝の言葉をもってその顔だけで十分に侮蔑の意図が伝わる。
手のひらがわずかに湿り、指先に力が籠る。言葉はまだ口をつかずとも、心の中で怒りの声が轟きわたる
やり切れなさを誤魔化す様に熱の庵に引き開けると
90°ほどの熱気でオーソドックなドライサウナであるが湿度も感じほど柔な熱気が體を包む。
高く掲げられた光の祭壇「TV」が据えられている。
その位置は、まるで神殿の祭壇のごとく、凡俗の視線を見下ろす高さにあり。
首筋にひそかな緊張が走る。
私の頭は反り返り、後頭部の筋肉が細かくうねる。
汗を滴らせた肩甲骨を背に
足を踏み出し、浴場の冷気を迎える。湯気の残像が、空気の中でかすかに揺れる
體を清めた後
20℃ほどである水風呂に身を沈める瞬間、全身を包む冷たさが
女性の細い白い腕に包まれる様に體を抱擁される様な官能的に妄想を掻き立てる。
整いの刹那、全身が溶け、心が静かに澄んだ。
言葉はこれ以上いらないのである。
諸兄は軽く頭を下げ、口元に微笑を湛えながらも、その目は何事もなかったかのように澄んでいる。
軽率な謝罪の言葉は声に感情の揺れはほとんどなく、謝罪の重みは表層にのみ漂っている。
私達は板橋を去る。振り返ることなく、しかし確かに刻まれた時間と場所を胸に抱き、夜の深みにゆるやかに溶けてゆくのである
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