水風呂の住人

2025.08.12

27回目の訪問

こんな夢を見た。
自分は熱気に満ちた、狭い木の室に座っている。壁も天井も乾ききった木でできていて、隅に置かれた熱い石が、時折じいと低い音を立てる。それが世界の全ての音であるかのように、あたりは静まり返っていた。どれくらいそうしていたか、ただ汗が玉になって流れ、やがて身体中の水分が、まるで嘘のように蒸発していくのを感じていた。
もう堪えられないと思った時、すっと立ち上がり、隣の室へ足を踏み入れた。そこは思いがけぬ光に満たされていた。高い天窓からであろうか、一本の青白い光の柱が、まるで天から差し込んだかのように、まっすぐに石の槽の中へと落ちている。その光以外のあたりは深い影に沈んでいて、槽の水だけが、この世のものならぬ色を湛えて静まり返っていた。
自分が縁に立つと、水の中から声がした。
「また来たのかね」
涼やかで、男か女かも分からぬ声であった。
「ああ、来たよ」と自分は答えた。
「世の熱に、魂が乾いてしまった時は、必ずここへ来ると約束したからな」
「よろしい。では、私の中へおりて来なさい。その熱した身体が、ちょうど良いころ加減に冷えたなら、お前の魂はきっと元の場所へ還れるだろう」
そう言われたので、自分はそろそろと石の段を降りて、光の柱が落ちるその水へ身体を沈めた。
不思議なことに、水は少しも冷たくなく、まるで天人の羽衣のように、すんなりと肌にまといついた。掛け流されているのであろう、槽の隅から、とく、とく、と幽かな音が絶え間なく聞こえてくる。自分の心臓も、はじめは早鐘のように打っていたが、そのうちに段々と静かになり、やがてその湧き水の音に溶けて、どれが自分のものであるか、分からなくなった。
自分は眼を閉じた。時間の感覚はとうに無い。一分か、一時間か。それとも、もう十年もこうしているのかも知れない。
ふと、自分の身体が、水のなかで透き通っていくような気がした。恐る恐る目を開けて、水底に沈んだ自分の手を見ると、指先が白く、硬い石に変わり始めている。その石はじきに腕となり、胴となり、やがて自分は、物言わぬ一つの石として水に横たわっていた。
とく、とく、と水の生まれる音がする。青白い光が、石になった自分を撫でていく。
その時、自分ははっと気がついた。ああ、約束の時はもうとうに過ぎて、自分は幾度もここへ通ううち、とうとうこの水の一部となって、永遠を得たのだと。そう悟った時、もはや何の感情もなかった。ただ、とくとくと絶え間なく水が生まれ、また流れ去っていく、その永遠の律動そのものに自分がなったのだと。

  • サウナ温度 109℃
  • 水風呂温度 14℃
2
50

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トントゥとは?

2025.08.12 22:58
0
水風呂の住人 水風呂の住人 さんに37 ギフトントゥ

芥川賞候補サ活
2025.08.13 04:52
1
おぷ おぷ さんに37 ギフトントゥ

ありがとうございますトントゥ
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