ゆうゆうのやかた
温浴施設 - 愛知県 一宮市
温浴施設 - 愛知県 一宮市
一宮の夜、数学の迷宮と異世界の扉
「ふぅ……春の風が、肌をなでる」
今宵も訪れたのは、一宮の「ゆうゆうの館」。
冬の刺すような冷気もどこへやら。外気浴の椅子に身を預ければ、春の気配が「ととのい」を一段深くしてくれる。
耳を澄ませば、地元の高校生たちの声。
「おい、ここはサインコサインタンジェントで……」
サウナで数学の講義。なんともシュールだ。
だが、その響きが私の脳を刺激する。
「……ほう。公式はまだ錆びついていないな」
熱気で研ぎ澄まされた思考回路が、数式を軽やかに解いていく。サウナ上がりの数学。意外と悪くない。
静寂の迷宮
湯上がり、漫画スペースのソファに沈み込む。
手に持つのはKindle。紙の漫画もいいが、今の気分はデジタルだ。
物語の世界に没頭し、一文字ずつ胃袋に流し込む。
……どれくらい時間が経っただろうか。
ふと顔を上げると、そこには「無」があった。
テレビの音も、人の気配も、店員の影すら消えている。
広大な館内に、私一人。
「……おいおい。まさか、異世界に転生したか?」
年季の入った施設の壁が、急に饒舌になった気がした。
照明の落ちた廊下が、どこまでも続いている。
昼間はあんなに賑やかだった場所が、今は「恐怖」という名の衣を纏っている。
私は慌てて荷物をまとめ、現実世界への出口を探した。
古い施設が見せる、ほんの一瞬の「裏側の顔」。
それもまた、サウナが見せる幻影だったのだろうか。
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