ひばり湯
銭湯 - 神奈川県 鎌倉市
銭湯 - 神奈川県 鎌倉市
17:32:00 ── 残り28分
17:32:00
大船。電車のドアが開く。降りる。
デッドラインは18時00分、ポルトガル料理のメルカド。
残り28分。
頭のなかでカウントが始まる。
考えるな。
計算しろ。
改札からひばり湯まで徒歩4分。入って、出て、目的地に向かう。
行ける。
17:33:40
下駄箱の前。券売機より先に靴を脱いでいる。手順が逆だ。わかっている。だが時間がない。靴下を脱ぎながら券を買う。シャンプーとコンディショナー、60円。手ぶらで突入した代償だ。受け取れ。進め。
17:35:14
浴室。湯気。視界が一瞬白む。洗い場の椅子。座るな。座れば負ける。立ったままシャワーを浴びる。普段なら腰を据えて呼吸を整えるところだ。その呼吸は今日、切り捨てる。
17:37:30
サウナ室、突入。砂時計は見ない。体内時計を信じろ。3分。たった3分でやるしかない。汗が出ない? 出ろ。命令だ。額に一筋。よし。
17:40:30
退室。水風呂へ直行。心臓が一度跳ねる。冷たい。構うな。1分。秒を数える。58、59──上がる。
17:42:00
脱衣所。拭く。髪は濡れたまま。乾かす時間はない。ドライヤーは敵だ。3分を奪っていく。捨てる。服を着る。
指が震えているのは寒さか、緊張か。判別している暇はない。
17:48:00
外。夕方の空気。任務完了。
16分で、私はサウナを通過した。
デッドラインまで、まだ12分。
ミッションは、成功だ。
私が確保したかったのは整うことではなく、人と会う前に一度、自分を水で通しておくことだった。
午後の汗、電車の匂い、ぼんやりした自分。それを16分で洗い流す。リセットというより、現場に出る前の装備点検に近い。
そういう日のサウナは、3分でいい。
18:00:00
濡れた髪のまま、メルカドのドアを開ける。
隣に座る相手は、私が18分前まで水風呂で秒を数えていたことを知らない。知らなくていい。いつもよりほんの少しさっぱりした顔で時間どおりに現れた男を、機嫌がいいな、と思ってくれればそれでいい。
ととのわなくても、人は次の現場へ向かえる。
さっぱりだけ、確保して。
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