中野寿湯温泉
銭湯 - 東京都 中野区
銭湯 - 東京都 中野区
サウ後日記②
銭湯ハシゴ
九月四日 曇天
中野の商店街に煌々と朱色の看板を掲げて佇む中野寿湯温泉。
静寂が広がるこの場所は、まさに現代の隠れ家のようである
銭湯ハシゴであるからしてシャワーで軽く體を清めて
颯爽と熱の庵(ねつのいおり)に手をかける
遠赤外線のストーブが奏でるゴンゴンと唸る音と共に、体内から滲み出る汗が、日々の煩わしさを洗い流していく。温度は約100℃。無音の中で、ただ自らの息遣いと滝汗に目を奪われながら。その静寂の中で、心は次第に研ぎ澄まされ、精神は清められていく
一二分時計は非ず、壁の左右に砂時計が取り付けられ
おおよそ五分程の物であろう
時間を気にせず砂時計の砂がサラサラと汗とともに落ちるさまは一貫性を感じざる得ない。
砂が落ち切ると共に裏返す手が自然と手を伸ばした。
きっともう體は限界に達する前だったのだろう
焦りに似た感情であったのだ。
砂がサラサラと三分の一も行かない所で
出口に誘われる様に體が進もうとした。
修行ならばあまりにも緩い自分に嫌気がさす。
そんな自分は好きなれません。
最後の足掻きで
諸兄、白濁パラッソス殿の教えが蘇り
ストーブに前に背を向ける様に立ち
心の中で一分を1…2…3…と唱える
限界であるからであろう一分(六十秒)と言う時間が静かに重く流れる
耐え忍び扉を押して熱の庵の間を離れる。
世界は同じままなのに、すべてが新しく見える。
滝汗をシャワーで丁寧に清める
サウナとは振る舞いの美も学べる聖地の様である
振る舞いの美を胸に水風呂に身を委ねる
水風呂の温度は高めである。
されど、それもまた、この儀式の一部として受け入れられる。
しかし小生はそれは好きという感情からは少し遠い、微かな反発の中にある。
脱衣所を抜けると、外気浴のための小さなスペースが広がる。
今の時代に逆境した様に灰皿が置かれている
灰皿に手を伸ばし、静かに煙草に火を点す。
煙草の煙は、夜の中野区の空に溶け込み、思考の流れを繊細に引き伸ばす。
まるで時間そのものが煙のように、ゆったりと流れていく
中野寿湯温泉の朱色の看板を背に商店街のタイル調の道を歩いて帰路に着く
揺れる街灯、そして湿った夜気が、
どこからともなく笠置シヅ子の「東京ブギウギ」歌声が漂ってくるかのようであった
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