博士号取得にはサウナが必要である
サウナイキタイアドベントカレンダー 13日目の記事です。
「やはりサウナは、ドチャクソ怒られた日が一番キマるのだ」と言っていると、「可哀想に」とシンプルに言われたのでぼくはかわいそう。
怒られからのオロポが一番うまいというのも、自分の中ではかなり再現性があったようだ。
大学院、こと博士後期課程は、精神衛生に影響をあたえる
という報告がある。(Bergvall et al., J. Health Econ., 2025)。
この論文および、千日前を見下ろすアムザの私がしめすように、博士課程には唾棄すべきストレス要因が数え切れないほどあるのだが、とかく私にとっては、極大のこれらを減らすために、サウナがもっとも有効だった。
上述のように、本稿を書くうえで私は、当時のサウナイキタイへの投稿をもとに振り返った。
はじめに断ると、私は研究者に向かない、現象と感情を結びつけて記憶するたぐいの人間である。そのため、この機会に読み返した投稿の年月日と内容から、サウナに行ったときの前後で何があったのか、在り在りと追体験することができた。
なのでこの記事を書いていること自体、感慨深い。まさかサウナイキタイから、このような機会をいただけるとは思ってもおらず嬉しい。もしよければ、社会の片隅に確かにいる私たちの存在を、共通言語たるサウナイキタイを介し、お見知りおきいただけると本望です。
はかせってなに?だれ?
この世に存在しない概念や現象の発見をし、きちんと世に報告すると博士になれる。
いや、もう少しだけ説明させてください。読みとばしてもよいです。
この意味合いは私にとって20代のほぼすべてだったし、同じような意味合いを持つ仲間もきっと見てくれているはずなので、彼らを全肯定する意味でも書きたい。
本邦ではよく、大学院卒という言葉に括られるが、そもそも博士・博士課程とはなんぞや?
博士は多くの国の高等教育機関・体系の中で与えられる学位のうち最高位のものである (博士)。
そして博士課程は、その博士号を取得するための教育課程である。
修了するためには、規定の単位を取得し、研究指導を受け、各大学院による博士論文審査と試験に合格することが必要である。修了すると博士の学位が授与される (大学院)。
少なくとも私の現在の研究業界では、これがあって初めて、研究者であると認められる。すなわち研究を仕事にしたい!と思うならば、博士号が必要なのである。
そしてこれらの過程を経られ属した方々は、どのような内容であっても等しく、人類知のために多大な努力をされていると理解し、私は非常に尊敬している。
とかく私はこの世に無いものを、一番最初に見たいだけなのである。ただし、気づくのがあまりに遅かったのだが、この考えは現代日本においては特に、アウトローな考えだったらしい。
一般的に優秀な者で博士号を取るような者ともなると、やはり国内では国立大学の学部出身者だろう。贅沢なことに私は、博士号まで持つ上記の人々を毎日多数見るが、須らく優秀だ。しかしながら研究はアイディア勝負で、オベンキョウが得意なだけではできないはずで、私のようなアホンダラも食い下がれると考え、大学院に飛び込んだのが2017年である。これが甘かった。
その過程はすべて省くが、行き着いた結論は以下の短絡思考だった。
私自身の基本能力値が低いので、仕事量を増やすほかない。
さいわい、私の所属した研究分野の仕事は、実験をして実際にたしかめることが重要なため、これはある程度通用した。結果として今日までは、この結論でも十分だったようだ。この先はわからない。
ともあれ、さまざまな方面の芝は、つねに青く見えつづけた。
> 仕事などは唾棄すべき存在だよ、僕は趣味を大事にする。積立NISAはS&P500に満額いれつづけて今日も安定して増えてくれている。満額入れないなんて有り得ないよ! 子供はこないだ小学生になったよ。
> 私、アメリカの学会で口頭発表したら、一緒に仕事しないかって呼ばれたの。博士号も留学のためのグラントも早めに取れたしすぐ行くんだ。
凡人の私にはこれらの裏に存在する苦労を想像できず、話を聞くこと自体が苦痛だった。到底自分にはどれも無理だと思った。いろんなものに逃げた。そのうちの最もおおきなものの一つがサウナだった。
唯一できそうだったハードワークだけは、私個人認識としては限界スレスレまで実験し、上司の言う事は絶対でやった。しかし煙草と睡眠薬とサウナだけはないと無理だった (ちなみに前者2つは博士取得後あっさり辞めることができた)。
思考がネガティブフィードバックしはじめたとき、強制再起動をかける方法論として、サウナを採用したのだ。非常に冴えていたと言わざるを得ない。
バイトと実験が終わったら、固定でよく行く銭湯サウナがあった。終夜営業で値段も安く、夜中は出入りが少ないので、120度にのった (ハッピーメーターだったかもしれないが、スピードメーターと同じで、閾値以上の値に意味などない)。
ところで私は、歩きながら考えなさいという上司の言葉を丸呑みし、常に何か考えて歩くようにしている。するとそうなりやすい性質だったのか、いつしか思考のスイッチが切れなくなった。何かしら永久に考えるのは非常につかれる。しかしサウナの一連のながれだけは、熱による擬似的な生命危機で、思考を強制シャットダウンしてくれた。
サウナに入ると、決まってまず仕事のことか、ネガティブなことばかり考えた。
優秀な同期は、キラキラしたトーキヨーの高層ビルっぽい所からの写真をラインで送ってきて、こないだ国の特別研究員になって、金の心配が減って年中実験しているそうだ (日本学術振興会特別研究員PD・DC2・DC1)。
農学部の時からの友達カップルや実家近くの幼なじみは、子どもが生まれ、お祝いにファミリアのデニムバッグをあげたいけど、当然のように実家にあったこれはこんなにも高いのか。いったい私は、今日も何をしていたのだろう。
午前2時くらいにやっている4チャンのアニメをサウナでボーッと見ながらずっと、将来のこと、明日やる実験のこと、ボスとの議論のことをずっと整理していた。後は将来のこと。お金のこと。毎日酒を飲むよりは安いと暗示をかけ、サウナ前後で一本ずつ2本と決めた煙草も、本当はいつも不味かったのだと思う。
考えられなくなったら水風呂に入って、露天エリアへ。しばらくすると、思考がまた戻ってくる。
ああ、今日もセンセは「あなたの仮説は間違っとる!」と言ってきてむちゃくちゃムカついたけど、こちらがマイナスに捉えていただけだったなとか、明日も頑張ろうとか、私をポジティブな方向にふり向かせてくれた。
SPRINGとは、国がここ何年かで新たに作った博士課程学生の支援制度のひとつである(次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING))。最近はなにかと議論もあるようだが、少なくとも私は、この制度のおかげで金銭的な不安が薄れ、終盤の研究に邁進できたため、とても感謝している。
寝ている時以外は研究室か、夜勤か土日の昼間にバイトに行った。
最後にお世話になったお掃除のバイトがとても良かった。20時過ぎからなのだが、終わり次第帰れて、一回1万円も頂けた。だいたい夜中の1時くらいまでには終わるので、めちゃくちゃ割が良かった。バイトが終わったら、ラボに寄ってちょっと実験してから、ご褒美にサウナへ行った。
お友達はみんな18とか23歳で就職しているのに、自分は学費支払いが遅れ一度教授会に稟議をかけられるところまで行った。今でこそ笑い種にできるが、当時は冗談ではなかった。
SPRINGという支援制度は、現在は博士課程の1年生しか応募権がないのだが、当時は制度が設立された初年度だったために、全学年が特例申請できた。すでに博士3年の頃だったが、必死に書いた。特別研究員の申請で何年も落ちた、見るだけで本当に吐き気を催した様式にまた向き合って、採択された。あの時は明確に国に感謝した。
今も思い出すのは、あの銭湯の少し狭いけど、真冬でも風が直撃しない露天風呂エリアで、雨樋から頭におちてくる水滴を数えた日々である。あの採択通知を見たときの外気浴には、今の私にはけして体験できないととのいがあった。たぶん、最後の論文の受理通知時のサウナよりも。
今はなきクアハウスも本当によく行った。クアハウスって2020年前後くらいまでは、学生は500円で入らせてくれていたのだ。
朝まで反応させる放置実験を仕込んだら、加納町の交差点の町中華で定食を食べてからクアハウスに向かった。
屋上のポカリスエットのベンチで、誰だかわからないけど絶対キレイなお姉さんが歌っているジャズを聞きながら、研究や人生の反省をしたり、山手幹線の暴走族のコールをうるせえと思いながらも、クアハウスのととのいに抗えず、寝落ちしたりした。
お風呂をあがって、いつもおられた可愛らしいエプロンのおばちゃんが脱衣場のお掃除をしてくれているのを横目に、スッポンポンのおっちゃんらと黙って煙草を吸い、朝まで放置の実験とは別の実験をしにまた研究室に戻った。
サウナが絡むといつもやる気が出た。自分の知りたいことを追求したいと思った。
いつも何度でも
未知のことを知るという目的の上においては、博士号は結果ではなく過程にすぎない。
依然私は、苛烈で競争的な世界にいて、終身雇用のお友達とはちがう、任期付きの博士研究員だ。結果が出せなければ、即落伍し、無職だ。今でもサウナから出、起き抜けたあくる日の朝、またそのことを思い出しては絶望する。しかし今はそうなる覚悟をもって、研究をする。元来私は、誰も知らなかったことを初めに見つけたいだけだからである。
自分は不完全で才能がなく、研究者を名乗ることなんて分不相応だという卑下は、もはや許されない。私を認めてくれる人がいるからこそ、まだ研究をつづけられているのだ。
私のお尻を全力全開で叩き、奮い立たせてくれた人は隣のデスクの島にもういないけど、それでもあの頃と同じレベルの結果を、私一人で出さなければならない。私はアマチュアではなく、プロフェッショナルの仕事をする必要がある。サウナは今も私に、それらの決意をいつも何度でも思いださせる。
やはりサウナは、博士号を得るために必要だった。

記事を書いた人
好きなサウナ: やっぱカラカラサウナ20分デスゲーム と思っててんけど、やっぱ王道を征くフィンランド式
プロフィール: ストレス減ってあきらかサウナ行く回数減ったが、高級サウナ行けるようになってうれちい。でも涙で塗れた実験とバイト帰りの街激熱銭湯サウナもずっと好きや。 最近はね、薪のサウナがいいよってなってるよ。プロフのサウナデビュー日入れるやつ、サウナ行くたびに記憶喪失になるのに覚えとるわけない。 あれっていつ。それすなわち不退転の覚悟を以って入院した時である! 好きな人は宇多田ヒカル 乗ってるバイクはGPZ600RとKSR110 鈴鹿最近走った 好きな番組は座王 好きなガンダムはターンX 煙草は絶対やめた (勝新太郎)
未来のノーベル賞、期待しています。受賞式では、サウナの偉大さを是非スピーチお願いします。
サウナ必要、タバコは不要っと_φ(・_・🌲
厳しい世界に身を置きながら、つかの間の癒しがサウナだったんですね。今後もサウナと共に研究頑張って下さい👍
現在の世の中を体現してます。 今度飲みにいけたら楽しいと思えました。
涙なしに読めない。ナイス🔥サウナ
博士を取るためにはサウナは本当に必要でした。 自分もサウナがあったから博士が取れました。
同じく博士号持ちのサウナーとして同感です。 今もポスドクさんということで、これからも研究、仕事を頑張ってください! (私も10年前までポスドクでした。) サウナは、研究者の孤独とストレスをいつだって癒してくれる、欠かせない存在です。
私も私立大学から国立大学の大学院に行き博士課程まで行きましたが満期退学者です。 修士課程から通算10年在籍しちゃいました。苦笑 学位取得大変でしょうけど、その根性と苦労に比べれば普通の仕事は楽勝です。 当時サウナがあったら違ったかも知れません。 頑張って下さい!
博士課程後期目指していて、学振落選したこと思い出しました。。夜中に大学の近所の銭湯サウナ行って前後にタバコ一本ずつ吸ってました。。 あの頃を思い出して、一気に読んでしまいました。。結局、諦めて修士で就職してしまいましたが、、あの頃の不安で、でも前に進むしか無くて、やっぱり不安。銭湯サウナ行くと頭すっきりして、当時、トトノウって言葉無かったですが、やっぱり、あれがそうでした。思い出させてくれてありがとうございました。m(_ _)m