冬の寒さが堪えるアラサー、「不感湯」に包まれてしまう。
サウナイキタイアドベントカレンダー 9日目の記事です。
水風呂を、心から愛していた。
わたしは、しがないアラサー女。サウナのなかではいつも、「入ったときは5だったから、せめて12までは頑張りたい」「右斜めの人はわたしよりも前からいるから、あの人よりは長くいなければ」と、頭のなかで人知れず死闘を繰り広げている。
すべては自分の愉悦のため。耐えれば耐えるほど、その後の快楽が何十倍にも膨れ上がることを知っているからだ。
いよいよ我慢できずにサ室の扉をガッッッ!と開けて駆け出していきたいところを、限界を悟られぬようにソフトに開けつつ、熱気を逃さぬように0.5秒で閉め、近場の風呂からザバリと掛け湯をしてまっすぐに歩みを進める。いざ、愛しいあの人が待つオアシスへ!!!!
最初はキンと冷たくて「あら、クールなのね」なんて拒絶された気分になるけれど、身を浸していくにつれてジワリとあたたかさを感じてくるからどうにも離れがたくなる。
はじっこにもたれかかり、足先と手先だけ水面に出して中心部をしっかり冷やす。これがわたしとあなたのベスト・ポジション。ビリビリと脳が痺れていくのを感じながら、「やっぱり、あなたが1番…」と恍惚のため息が漏れる。
しかし水風呂を愛するがあまり、気付けばいっちょ前に「ここは18度か。ぬるいな」などと品定めをするような女に成り下がってしまった。
失礼を承知で言えば、「15度以上の水風呂は、水風呂じゃない」とまで思っていた。身の程知らずである。でもでも、その中途半端な感じがわたしを傷つけることを彼らは知らないのだ。
15度以上のアイツは、サウナで火照ったわたしを中途半端にやさしく包んでくる。そうすると、離れたときにどこか物足りなさが残るのだ。夜風に吹かれ、しっとりと湿った椅子に身をもたげながら、「やっぱりなんか違う」と行きつけの銭湯に佇む、冷たいあなたが恋しくなってしまう。
キンキンに冷やしてほしい。わたしの邪な心ごと、ぜんぶ。
しかし、あろうことかわたしは浮気をした。
どんなに「今日は冷たいな」「ちょっとやりすぎなんじゃない?」と心の片隅で思っていても、それが自分の幸せのためなんだって信じていたのに。
とうとう出会ってしまったのだ、「不感湯」に。
「なんだその新キャラは」って人に説明しておくと、端的に言えば熱くも冷たくもない湯である。可もなく不可でもない。無難なヤツだな〜と思いきや、スーパー銭湯の隅っこで老若男女問わず地味な人気を誇っていたりする。
初めて不感湯に出会ったとき、そいつは洗い場と露天への入り口の隙間にひっそりと佇んでいた。怖いもの知らずで入ってみたところ、うっかり40分間浸かってしまうほどに大変魅力的であった。だからこそ、「これ以上、手を出したらまずい」という気持ちがあったのも事実である。
本命に会う時間がなくなるからだ。
わたしのトータル銭湯タイムは約2時間。40分も不感湯にかまう暇はない。いつしか、あからさまに避けるようになっていた。多くの人がうっとりとした表情で浸かっているのを尻目に、「アイツに入ったら終わってしまう」と足早にサ室に向かうように努めた。
しかし、そんな抵抗も虚しく、わたしは不感湯に落ちてゆく羽目になる。なぜって、アラサーだからよ。
去年までは大丈夫だったことが、いきなり大丈夫じゃなくなる。それがアラサーという悲しき生き物なのだ。
まさか自分が、冬のととのいタイムを「さっむ!!!!」と3分やそこらで切り上げてしまうことになるとは思わなかった。冷たい北風が、サウナからもらった熱を一瞬で奪い去っていく。おかしい、去年の今ごろは寒空の下でもぐぅぐぅ呑気に寝ていたはずだ。
時の流れはなんと残酷なのか。経年劣化により、冬季期間中まったくととのえない身体になってしまったのだ。そもそも、寒い冬こそのサウナなのに…?もはや、サウナーとしての死である。
神様…この長い冬をわたしにどう乗り越えろって言うの…!?絶望の淵でふと顔を上げると、そこには不感湯がいた。サ室を出て掛け湯をかぶったところで、バッチリ目が合ってしまったのだ。まるで誘われるように、ふらふらとした足取りで水風呂の横を素通りし、いつもと違うルートを行く。
ついに、来るべきが来たのかもしれない。まったく湯気が立ち込めていないそいつに、震える爪先を恐る恐る浸してみる。
う…う…ウワァァァァァ…!
自分の体温と湯の境界線が…ない。全然あったかくないのに、決して冷たくない。やさしくもない。かといって突き放すわけでもない。ちょちょちょっと、何考えてるわけ?わたしをどうしたいわけ…?なんて最初は戸惑いを覚えていたが、次第に思考が奪われ、わたしは目を閉じた。
“無”へと還ってゆく。
まるで身体が湯に溶けていくようだ。サウナで得た熱さも、わたしから少しずつ離れていくようで完全には冷めきらず、つねにぼんやりと身体の芯にほのかなあたたかさを感じる。そこには、たしかに“永遠”があった。情熱や激しさはないけれど、平和でゆったりとした時間が流れていく。
もしかしてわたし、あなたとだったら一生一緒にいられるの…?わたしはそのまま、時を忘れてボケーッと浸かりつづけた。
さらにわたしは、不感湯をさらにしっかり味わうための究極の相棒まで見つけてしまう。
プールスティックである。
プールスティックとは、発泡ポリエチレンでできた、棒状の浮き具である。川崎にオープンしたスタイリッシュなサウナで、無造作にバスケットに挿さっているのを発見し、不感湯のなかで浮いてみたところ、それ以降の記憶を喪失した。
さらに不感湯は、微妙な温度のプールとも代替可能である。「不感湯」と謳ってはいなくとも、あたたかくも冷たくもないプールはほぼ不感湯同然。
それまでは、「なんで水風呂じゃなくてプールを設置したわけ?リア充向けサウナなの?」とブーたれていたわたしも、冬のあいだは積極的にぷかぷか浮きにいくようになった。そして、プールには必ずと言っていいほどプールスティックがある(プールだからそりゃそう)。
これは決してリア充がキャッキャウフフするためのイケナイアイテムではない。永遠(とわ)なるととのいを約束してくれるサウナーアイテムなのだ。
かくして冬のあいだ、わたしは水風呂としばしのお別れをすることになった。
本当はこんな二股をかけるみたいなこと、許されないのかもしれない。でもわたしは、もう耐えられないの。極寒に五臓六腑が震えてしまうの。
そして求めてしまうの。あたたかくもなく、冷たくもないあの人を。刺激的なところは何もないんだけど、心地よさに身を委ねたくなる、穏やかなあの人を。
この時期寒さに凍えますよね! マグ万平ののちほどサウナでこの時期は水風呂の時間をあえて短くし、外気浴を長めに取るとまだイケる!とこの前見ました! でも不感湯はやばいですよね…どこいっても魂抜けたみたいな顔してみんな入ってますよね笑
冬の間だけで済みますかね〜。年中一緒に過ごす仲になりそうな予感がにじみ出てます(笑)素晴らしい文章を、ありがとうございました😊
冷たすぎる水風呂、冬だと冷えちゃいますよね~💦個人的には冷たい水風呂→ぬるい水風呂があると完全に力が抜けて好きです🤗プールスティック!試してみたいです😍
整いの呪縛から解放されたら、サウナはより自由で無限大。私の持論です。固定概念を取っ払うと教科書に載っていない快楽に沢山出会えました。ゆび♨️さんの不感湯もまさにソレですね。私はサウナ→水風呂→不感湯で肌がゾワゾワゾクゾクする快楽を覚え、お気にの不感湯がらある施設だとよくやります
真冬の水風呂からの外気浴🥶 私も例外なくアラサーですが、お気持ちお察しします。。 真冬はサウナ→掛け湯→外気浴をやってはみたものの、水風呂に入らないなんてもったいない!と思い今では真冬は内気浴を選ぶ始末。。 外気浴で体から出る湯気を感じながら、ととのいたい。気持ちだけはあります🤣!
ぬるい高濃度炭酸泉に一生入ってる人いるいる~。入りたくて待ってる人の気持ちまで不感になってはいけないね🌲
文章が上手すぎて水風呂が違和感なくパートナーとして擬人化されており引き込まれました! 私も最近不感湯デビューしましたが、水風呂を挟んだりと試行錯誤をしている所です…!
ユーモアたっぷりの文章に、 読み終えたときに「あっ、終わってしまった」、、と思うほどに引き込まれてしまいました。 私も水風呂が大好きですが、長く入りすぎて、首や肩のこりに悩まされてます😓 プールや不感湯に出会ったら、もっと活用してみようと思いました☺️
めちゃくちゃ共感出来ました🐤 私も正に全く同じです🐥
うける
不感湯は老若男女大人気ですよね😚今の時期は水風呂短めにして、外気浴ではなく不感湯で休憩がちょうど良いです👍
占領するのは良くないと思いつつも、なかなか出れないんですよね
不感湯、わたしも大好きです。
特にこれからの季節にぴったりの記事でした。寒すぎるときは、不感浴で休憩するのが好きなので、不感浴の魅力がもっと広まってほしいです!