香(かぐわ)しの燻製めがね
サウナイキタイアドベントカレンダー 1日目の記事です。
サウナで「薫(かお)りを持ち帰る」という発想は、普通に生きていたら出てこない。
持ち帰るとしたら、芯まで温まった「身体の熱」か、ととのった後の「心地よい余韻」くらいのものだろう。
だが――JUURI SAUNA(ユーリサウナ)は、そんな淡いものだけでは帰してくれない。まさか、銭湯でお馴染みの黄色いあいつ、「ケロリンめがね」が、森の薫りをテイクアウトするための「桶」になるとは思わなかったのだ。
上野から新幹線で1時間半。仙台の友人に「来いよ」と誘われ、調子よく「行くか」と答えたその先には、僕の知らない世界が広がっていた。
仙台駅から車を走らせ、出島(いずしま)へ。「本当にこんな場所にサウナがあるの?」と住所頼みのカーナビがざわついたあたりで、フェンスに奥ゆかしく掲げられた、JUURI SAUNAの看板が出迎えてくれた。

森の中の“煙の劇場”
JUURI SAUNAは、サウナというより“舞台装置”だ。扉を開けた瞬間、薪が奏でる静かな轟きが耳へ、温度・湿度の強弱の層が肌へ、そして燻香が鼻へと押し寄せてくる。
特にこの燻香だ。「薫り」ではなく「気配」。
焚かれた薪が蒸気に溶けて、木と火と水が三つ巴(みつどもえ)。単なるスモークではない、“森の深層”みたいな存在感がある。

サウナを出て、水風呂を経て、外気浴をする。
サウナ室でも使える愛用の「ケロリンお風呂メガネ(以下ケロリンめがね)」をかけ直した瞬間――
「あれ? このめがね、森に住み始めた?」
あの桶と同じ、目に痛いほど鮮やかなケロリン・イエローのフレーム。
普段なら銭湯の湯気に紛れてポップに見えるその丸い樹脂ボディに、JUURI SAUNAの重厚なスモーク香がガッツリ染み込んでいる。金属パーツを一切使わないポリカーボネート製のこの眼鏡。「耐熱性」はあっても、まさか「耐燻性」がないとは(笑)。
人工的な食用のスモーク液とはまったく違う、天然素材の“優しさと複雑さ”を、その黄色いプラスチックが全力で吸い込んでいる。まるで、おもちゃみたいな見た目のまま、中身だけ森の賢者へと生まれ変わったかのようだ。
この時、僕は悟った。
スモークサウナは、単に体を温める装置じゃない。薫りの記憶を眼鏡に留める、記録の装置でもあるのだ。

サウナと“燻香”の文化的な相性
この相性は、妙に筋が通っている。
1. 日本文化の「食と住」
日本料理の魂である「鰹節」は、カツオを数ヶ月も煙で燻し続けて作るし、 古民家の「囲炉裏」は、柱や屋根を煙でコーティングして家を守ってきた。 「美味いもの」と「安全な場所」には、常に焚き火の匂いがセットだったのだ。日本人は立ち昇る煙の香りにどこかホッとするDNAを持っている。
2. サウナ文化も、北欧では木の薫りが主役
一方、フィンランド人も負けていない。彼らは木から抽出した「タール」の独特なスモーク香を愛しすぎて、シャンプーはおろか、飴やアイスクリームのフレーバーにまで採用してしまうほどだ。彼らにとっても“焦げた木の匂い”は、日常であり、郷愁のど真ん中なのである。
3. 両者の共通項:煙・焦げ
日本の燻し愛と、フィンランドのタール愛。まったく違う起源を持つのに、どちらも「燻(いぶ)された薫り」をDNAレベルで欲している。
昭和レトロの象徴である「ケロリン」と、北欧の自然崇拝のような「JUURI SAUNA」の薫りが、僕の目元で交差した。文化の交差点は思いがけずに現れる。

そして記憶を残す“燻製めがね”
仙台から帰ったあと、眼鏡ケースを開けてみる。すると、ふわっ……と、あの出島の森が顔を出す。「お前、まだ残ってたんかい」と思わずツッコむほどの存在感だ。
サウナ好きの間で、『”ととのい”はリラックスの発電所、”燻香”は魂のタイムカプセル』と言われても、誰も反論できないだろう。(言われてないけど、今言った)
結局のところ、どんなに素晴らしいサウナの熱や蒸気も、新幹線に乗れば日常に上書きされてしまう。
「ととのい」は、その場限りの儚い心地よさだ。だが、この眼鏡に染み付いた薫りだけは、しぶとく日常に食らいついてくる。そう考えると、旅するサウナの本質は、その場で消える「熱・蒸気」だけではなく、日常に持ち帰って記憶を再生させる「薫り」にもあるのかもしれない。
黄色いフレームをかけるたび、ふわりと森が薫る。
その瞬間、僕は東京銭湯の脱衣所で佇みながら、何度でもあの日の出島へ帰ることができるのだ。
これこそが、“燻製めがね”の真骨頂である。
※ なお、ケロリンめがねが“匂いが付きやすい”という話ではなく、JUURI SAUNAの燻香が強めだったための一時的なもの。実際にはひと月ほどで自然と抜けていきました。また行かなければ。
宮城県女川町にあるフィンランド式サウナ
※JUURI SAUNA訪問時のサ活
https://bm-test.akaimai.work/saunners/45760/posts/8986397
※燻製めがねに気づいた玉の湯でのサ活
https://bm-test.akaimai.work/saunners/45760/posts/9082122
記事を書いた人
好きなサウナ: 「この道の先にあるサウナ」です。 歩いてサウナ、走ってサウナ、 チャリ漕いでサウナ、旅行の目的地がサウナ。 サウナ後に始まる一日。 サウナへ至る道、サウナから始まる道のりに、 最近は魅力を感じています。
プロフィール: ○サウナ歴は? →5年(2020/10/14〜) ○通う頻度は? →週1〜3回くらい ○きっかけは? →書籍「医者が教えるサウナの教科書」を読んで ○産湯は? →ふじやま温泉 ○なぜハマったか? →体感で睡眠の質が良くなったから ○次の1年の抱負は? →フルマラソンの37Km地点にサウナ的な応援スポットを設置する。 ○3年以内にやりたいことは? →サウナを休憩所として回復しながらゆるく長く走るイベント「ツール・ド・サウナ」を作りたい。
トップバッター執筆お疲れ様でした。 昼休み、ワクワクしながらアドベントカレンダーを開いたら、一発目に見覚えのある写真・・・これJUURIだよね?と思ったらやはりそうで、ワクワクしながらもし読み進めました。 自分が燻製になった感はすごくありましたね🤭 見えないの覚悟で裸眼で入ったのでわからなかったけれど、メガネにまで薫香が染みつくとは驚きです。次行く時に試してみたいです。 知ってる施設が出てくると、なんか嬉しい☺️
ユーリサウナ素敵ですね!いつかわたしも行ってみたいです!
読むとほんのり匂う感じがしてくる作品🎄
体験してみたい!
いつか私のサウナメガネもいい香りさせたいと思わせてくれるお話でした🧖♀️
薫香メガネが実に興味深いです、笑。今度、ラン&サウナしましょうー!
サウナハットやタオルに残った香りなら分かりますが、まさかメガネが薫香を持ち帰るとは🤣家に帰ったあとサウナ道具を片付けている時にふと香ってくると、またイキタイと思いますよね👍
仙台市民です。ユーリは2回行きましたが、どちらも帰りに車を運転しながら、どことなく燻された匂いを感じたので、よく分かります。読んでいたら、また行きたくなりました。
素敵な記事
思い出ごと香りを持ち帰る…! 詩的で儚いすてきなおみやげだなあと思い、香りを想像しながら読んでいたら幸せな気持ちになりました☺️
サウナで蒸される 五感が研ぎ澄まされる感覚の中で 〝香〟に注目した記事に読み入ってしまいました ありがとうございました.
香りでサウナの記憶が蘇るのが素敵です!メガネかけないけど、燻しに行きたくなりました…!
ケロリン眼鏡気になってたんですが、アヒル隊長眼鏡にしてしまった💦 ケロリンも買わねば‼️
香りって結構印象に残る要素かなと思います。 記事を読ませて頂きながら想像させて頂きました🤤
ん〜、すごい文才☺️👏 ユーリサウナ行ってみた〜い♪
いつも楽しくサ活を拝見しています😇 最近は、我がホーム&巡回銭湯サウナにいらしていましたね。 自分も燻製眼鏡を作成したいと思います🙇
さすが読み応えのある素晴らしい文書ですね。随筆かと思いました!
素敵な記事でした!いつかイキタイと思ってたのでより期待が増しました!
愛おしい残り香ですよね!めちゃ共感しました!楽しい記事ありがとうございます!
薪でお風呂を焚いてたいた私にとって、まさにDNAに訴えかけるサウナであること間違いなし。文章からも香りが漂って来ました。ありがとうございました。