サ友でもある息子から親父が独り立ちするまで
サウナイキタイアドベントカレンダー 14日目の記事です。
サウナに出会う親父と息子
私はサウナ歴6年である。こう書くと勘の良い方はすぐにお気づきかと思うが、ドラマ『サ道』がきっかけである。ナカちゃんさんや、偶然さん、イケメン蒸し男くんを見て、なんだか気持ちよさそうだな、おもしろそうだなと思ってサウナに興味をもち始めた。
第2話で訪れたニューウイングには泊まったこともあったし、水風呂で泳いだ?こともあったが、サウナには入っていない。ドラマを見るまでサウナがあることも認識していなかったように思う。
ちなみに、それまでも家族でスーパー銭湯にはいろいろ行っていたが、サウナにも水風呂にも近寄ったことがなかった。
第4話を見た翌日だったろうか。たまたま行った屋外の市民プールにサウナが併設されていた。気軽に入ってもよさそうで、初めての私にはこれくらいがちょうど良かった。息子と二人で水着を着たままサウナに入ってみた。それほど熱くはなかったが、長く(当時としてはそう感じた)入っていると、じんわりと汗がにじんできた。
そして、プールに飛び込んでから木陰で休憩してみた。なんだかよい感じ。息子も同じ感想をもったようだ。
数日後、今度は行き慣れた近所のスーパー銭湯。いつもだったら近寄らない領域を横目で見ながら、まずは身体を洗い、シャンプーをして、冷水器で水分を補給した。そして、意を決して、息子と二人でサウナの扉を開けた。
しかし、前回とは違い、サウナに入ると強烈な熱風が襲ってきた。そう、ちゃんとしたサウナは、しっかりと熱いのだ。プールに併設されているサウナとはわけが違う。たじろぎながらも、後から入ってくる息子に押されるように、私は席に着いた。もちろん、一番下の段に(ドラマのおかげで1段上がると温度差が10℃という知識あり)。
なんだか息苦しいし、とにかく熱い。市民プールのサウナとは全然違う。息子に聞くと、温度計は92℃を指しているとのこと。でも、じっと耐える。うっすらと汗がにじんできたような気がした頃、壁時計を見ていた息子が「あと、1分」、そして、「6分たったよ」と知らせてくれた。
慌ててサ室をでるが、水風呂の前でもう一度たじろぐ。プールとは違い、これは水風呂なのである。絶対に冷たいはずだ。汗を流すのがマナーであることは偶然さんから強く教えられていたので、意を決して水をかぶる。想像通り冷たい。でも、我慢してもう一杯。そして、水風呂に左足先を付ける。水温の低さに一瞬ひるむが、勢いをつけて胸まで入り、さらに肩まで。
入れはしたけど、やっぱり冷たいぞ。1分くらいのイメージだったが、きっと30秒もたたずに出ることとなった。外風呂スペースに向かいながら身体を拭く。そして、二人で並んでベンチに。ちょっといい感じ。
2回目。サ室に座ると、息子が「さっきほどは熱くないかも」と。たしかにそう思う。息子の「6分たったよ」でサ室を出て、水風呂につかる。さっきほどとは思いつつも、30秒程で出て、身体を拭きつつベンチへ向かう。ちょっといい感じ。
3回目。サ室に座ってしばらくして、手の甲に汗が浮いていることに気づいた。これはずっと後になってから分かったことだが、私は身体のなかでも発汗が早いのが背中、腋とともに手の甲なのだ。ということで、視認し易い手の甲は発汗状況の確認にはうってつけ。息子を見ると、鼻の頭に汗が浮いていた。
そこからしばらく我慢していると、息子の「6分たったよ」でサ室を出て、汗を流して、水風呂につかる。これまでよりも辛くないし、ちょっと気持ちいいかも。でも、30秒ほどでベンチに向かった。
ちょうど体を拭き終わる頃に、風が吹いた。サ道でもそんなシーンがあったような。息子と目が合う。改めて言葉は交わさなかったが、きっと同じことを思い浮かべていたことだろう。
たしかに分かる。サウナは気持ちいいぞ。
サウナに通う親父と息子
元々、スーパー銭湯や日帰り温泉にはよく行っていたが、その日を境にサウナのある所を選んで通うようになった。そして、今まで以上に足しげく通うようになった。最初は6分だったサ室での時間も、8分、10分と伸びていった。水風呂もだんだん長く入れるようになったし、長く入るとその後の休憩の気持ちよさが増幅することに気づいたりもした。
座る場所もどんどん変わっていった。最初は辛くなったらすぐに出られるように入り口近くの、さらには一番下の段だけだったのが、入り口近くは温度変化が大きいので避けるようになったし、ヒーターの近くや、上の段にも座るようになった。
この当時は今ほどのサウナブームでもなく、田舎までは広まっていなかった。そのため、サ室に二人だけの時間もたくさんあって、お互いにアウフグースを真似て、タオルで風を送って、両手を上げてナカちゃんさんのように風を受けたりした。
そしてなによりも、サ室は息子といろんな話をする時間となった。もちろん黙浴という言葉もなかった時代だったので。
当時の息子は高校3年生。大学受験を控えていた。息子には夢があった。夢というのは、具体的な職業ということではなく、作りたい世界観であって、そういうことを学べる大学への進学を望んでいた。そんな息子の話を聞くのはとても楽しいし、それ以上に頼もしくも、誇らしくも思えた。
そう、サウナは親父と息子の貴重なコミュニケーションの時間を創出してくれたのである。

息子の旅立ち
『サ道 2019年末SP―北の聖地でととのうー』が放送された頃には、息子の受験校も決まっていて、大学入学共通テストも近付いていた。
先ほど書いた息子の夢を叶えるのに最適なのは、四国にある大学とのことであった。うちからはだいぶ離れた地域である。もちろん大学は希望すればどこでも行けるわけではなく、合格する必要がある。そのため、他の大学も受験することになる。他の大学は全てが自宅からも通学可能なところにあった。
息子の将来を思わない父親などいない。しかし、志望校への合格を祈る心の片隅に、ほんの少しではあるが、一人でのサウナを想像して寂しさを感じてしまうのだった。そんな親父の不埒な思いなど微塵の影響もなく、無事に息子は志望校へ合格することができた。本当に良かった。
ちょうどコロナ禍。息子は一人でアパートを見つけ、荷物をまとめ、必要な家財道具も揃えて、着々と準備を進めていた。アパートの契約ぐらいは親が行かないとダメかと思っていたが、ライン通話で大丈夫とのことだった。
いよいよ家を離れる少し前に、私たちは念願だったサウナの聖地“北欧”へ行くことにした。すっかりサウナの魅力にハマってしまった私たちにとって、最高の聖地である。ナカちゃんさんたち3人が座った席で、牛すじの入ったカレーも食べた。3人がととのったあの椅子にも座った。そこから見えた東京のビルの隙間の曇った空を、私は今でも覚えている。
親父の独り立ち
息子の旅立ちがコロナ禍と重なったため、すぐに独り立ちとはならなかった。スーパー銭湯で感染したなどとの噂もあったりして、サウナーには辛い日々が続いていた。
しばらくすると、湿度の高いところでは感染リスクも抑えられるとも言われるようになり、もう我慢も限界が来ていた私は、こっそりとサウナに通うようになった。
さて、独り立ちに向けては二つ克服しなければならないことがあった。一つは視力が低いこと。通常の生活であったり、お風呂ではメガネをかければ解決するので、サウナに限定される悩みである。さすがに席が見えないほどではないので、問題は時計が見えないことと、温度計が見えないことである。もちろん、これまでは息子がどちらも見てくれていた。
もし私が究極のサウナーだったとしたら、時計も温度計もいらないのかもしれない。自分の感覚を信じれば良いのだ。でも、今でも、ましてや当時の私は数字を頼りに「ととのう」を目指していたのだ。
まずは時計問題。これは意外とあっさりと解決した。腕時計だ。もともと私はGショックの愛好者だったのだ。耐衝撃性と防水性を謳っているGショックであったが、耐熱性とは書いてないので控えていたのだが、試してみるとぜんぜん大丈夫だった(たぶん)。
しかし、温度計のほうは解決できなかった。多機能も誇るGショックには温度計付きもあったのだが、さすがにサ室の温度を正確には測ってくれなかった。様々なものを試してみたものの、この解決にはしばらく時間がかかった。
解決したのは、それから2年ほど過ぎた頃で、それもやはり腕時計であった。そもそも温度と時間を確認したいのは、ととのいたいからだ。
サウナで「ととのう」メカニズムは、サ室(熱い)と水風呂(冷たい)の急激な温度変化により、自律神経の交感神経と副交感神経が激しく切り替わることで心拍数が大きく変動し、その後のリラックスタイムに心身が快感状態になるためとのこと。だったら心拍数が目安になるはずだ。ということで、心拍計の付いた腕時計に切り替えた。
これはとても効果があった。サ室で心拍数を110~120に上げて、水風呂で55~60くらいに下げる。それを繰り返すと、結構な確率でととのえるようになった(思い通りにいかないこともあるので、ご無理なさらず)。
さて、少し時を戻そう。克服すべきもうひとつは、私が寂しがり屋ということだ。本質的な解決は無理な課題であるが、ごまかすことならできるかもしれない。一般的にはテレビを見ることなのだろうが、そう、私は目が良くないのでテレビも見えないのだ。黙浴のおかげでそう多くはないが、周りの人のおしゃべりも気になってしまう。
そんな中で思いついたのが、耳栓であった。百均でポリウレタン製の耳栓を買って使ってみた。なにも聞こえないわけではないが、遠くから聞こえるような感覚になった。自分だけがなにか膜のようなものに包まれているような感覚。水風呂の中で冷たさを感じなくなる、あの感覚に近いかもしれない。
そんなこんなで試行錯誤を繰り返しながら、夏になる頃には、いつの間にか一人サウナにも慣れてきていた。そう、独り立ちできていたのだ。

いつまでもサ友
息子が大学3年の冬、行動制限も解けていたこともあり、私は四国を訪れた。もちろん二人でサウナに向かった。幸いにも他のお客さんがいなかったため、久しぶりにたくさんの話を聞くことができた。
希望の大学に進学した息子は、学内での学びにとどまらず、フィールドワークなどから、多くの経験を積んでいた。もちろん3年前と同じ思いで語ってくれたのだが、その言葉には重みが加わっていた。そう、息子も一年後に控えた独り立ちに向けて、確実に成長していたのである。
サ室の熱さとともに、熱弁の熱さも加わり、気づけば二人とも流れるような汗をかいていた。その汗を流し、水風呂に浸かり、椅子に座ると、遠くに海が見えた。建物と建物の間に見える冬の海の色は、3年前に北欧でビルの隙間に見えた東京の空の色に似ていた。
息子は大学を卒業すると、夢を叶えるべく東京で就職した。我が家からそれほど遠いわけではないが、家に戻ることはなかった(住むという意味で)。でも学生時代とは違って、時々は戻ってくる。そんな時には二人でサウナに向かう。サ室での息子の熱弁は変わらない。いや、さらなる経験を積んで、もっと自信を付けて話しているのかも。少し変わったといえば、帰りの車を息子が運転するようになったこと。おかげで私は風呂上がりのビールを飲めるようになった。帰りの車中では酔った私の熱弁のほうが多いかも。
独り立ちした今でも、サ友がいる幸せは変わらない。息子は最高のサ友である。

記事を書いた人
とっても良いお話しにウルっと来ました🥲
名文でした👍️
私もいつか息子に運転してもらって一緒に行くのが夢です。同じ目線で話せるなんて素敵で羨ましいです。
素敵なお話し。
良い話でした👏
とても素敵な父子関係ですね✨息子さんがそんなにたくさんお話してくれるのは、お父さんのことが大好きだからなのでしょう。帰りの運転が息子さんに代わって、くれまちすさんがサウナ後に🍺を飲めるようになったところにほっこりしました😊ステキなサ活をありがとうございます。
息子とサウナ行くって、 息子と酒を呑み交わすのと同じぐらい良いですよね
素敵なお話です
親子でサ友、とても素敵なお話しを有難うございました👏
とっても素敵なエッセイでした。私も息子とサウナに行く親子サウナーですが、まだ小学生です。これからのことを考えてあたたかくも切ない気持ちになりました。ありがとうございました。
羨ましいです。今度息子達を誘ってみようかと思いました😀
素敵なお話にホッコリしました🫶 親に会いたくなりました、一緒にサウナ入れるなんて、幸せですね!
親がサウナを「教える」のではなく、「一緒に体験」しているのが素敵ですね。 親心が痛い程伝わる名文…!
旅立ちとコロナ禍で心配な文字が並んだけどちゃんと就職した息子が出てきて安心した🌲
自分も高1の娘とほぼ毎週日曜日に、温泉やサウナに行ってます。いつか終わる日が来るかと思うと寂しくなります😭😭😭
息子がほしくなりましたw
いいエピソード、ありがとうございました。私は娘2人ですが、たまに水着で入れるサウナに一緒に行くのが幸せです。
素敵なエピでした♡
同じ年頃の息子を持つ、同じ父親として目頭が熱くなる素晴らしいサ活でした🥹
泣けます😢
素敵なお話😭
私も息子たちとサウナ行くので泣けました(;_;)
くれまちすさん、はじめまして。息子さんとのサ活、よく分かります。自分は、昔からサウナは入ったりしていましたが、水風呂ははいっていませんでした。サ道をみてから水風呂に入るようになり整いも体感し、より一層サウナを楽しむようになりました。そんな時に息子と行くようになりました。最近はなかなか一緒に行く事も殆どありませんが。ソロサウナを自分のペースでお互いに楽しみましょう
最高のサ友・息子さんですね👍今後も仲良くサ活頑張って下さい😊
息子がサウナ仲間。 最高すぎます。
息子さんも、お父さんもすてき。
素敵な親子関係にジーンとしました!
めちゃくちゃ共感できました!良いお話しをありがとうございます!!